エコエナジーガイド

太陽光発電の導入を検討する際、ほとんどの方が抱く最大の疑問、それは「うちの屋根にソーラーパネルを設置したら、一体どれくらいの電気が作れるのだろう?」ということではないでしょうか。
電気代の削減効果や、導入費用の元が取れるかどうかは、すべてこの「発電量」にかかっています。
しかし、発電量は住んでいる地域や屋根の状況、季節によって変動するため、正確な数値を把握するのは難しいと感じるかもしれません。
「業者に聞く前に、まずは自分で大まかな発電量を知りたい」 「提示されたシミュレーションが、本当に妥当な数値なのか判断したい」
この記事では、そんな皆様の疑問にお答えするため、ソーラーパネルの発電量を自分で計算するための具体的な方法から、容量や季節、地域による発電量の目安、さらには発電量を最大化するための秘訣まで、網羅的に解説していきます。
まず、複雑な計算をする前に、誰でも簡単に覚えられるソーラーパネルの発電量の「黄金律」をご紹介します。
それは、ソーラーパネル1kWあたりの年間発電量は、およそ1,000kWhになるという目安です。
もちろん、これはあくまで全国平均の概算値であり、後述する様々な要因によって変動しますが、大まかな当たりをつけるための非常に便利な基準となります。例えば、ご自宅の屋根に4.5kWのソーラーパネルを設置した場合、年間の発電量は「4.5kW × 1,000kWh = 約4,500kWh」と予測することができます。まずはこの「1kWあたり1,000kWh」という数値を覚えておきましょう。
「1kWあたり1,000kWh」の目安を使うと、一般的な家庭で設置される容量ごとの年間発電量と、それによって得られる経済効果を簡単に試算できます。
以下の表は、容量別に年間の予測発電量と、その電力をすべて自家消費した場合の電気代削減額を示したものです。
※電気料金は、再生可能エネルギー発電促進賦課金などを含む近年の平均的な単価である「1kWhあたり31円」として計算しています。
設置容量 年間予測発電量(目安) 年間電気代削減額(目安)
3kW 3,000kWh 約93,000円
4kW 4,000kWh 約124,000円
4.5kW 4,500kWh 約139,500円
5kW 5,000kWh 約155,000円
6kW 6,000kWh 約186,000円
7kW 7,000kWh 約217,000円
このように、具体的な金額にしてみると、太陽光発電がもたらす経済的なメリットがよりリアルに感じられるのではないでしょうか。
では、一般的な家庭の電気使用量に対して、ソーラーパネルはどの程度貢献できるのでしょうか。
総務省統計局の家計調査によると、4人家族の1ヶ月あたりの平均的な電気代は約13,000円前後です。これを先ほどの電気料金単価31円/kWhで換算すると、月間の電気使用量は約419kWhとなります。
年間に換算すると、419kWh × 12ヶ月 = 約5,028kWh となります。
この数値を先ほどの早見表と照らし合わせてみると、5kW程度のソーラーパネルを設置すれば、理論上は年間の家庭の電気使用量とほぼ同等の電力を発電できる可能性がある、ということが分かります。
もちろん、発電した電気をすべて使えるわけではありませんが、家庭のエネルギーをかなりの割合で自給できるポテンシャルがあると言えるでしょう。
「1kWあたり1,000kWh」は便利な目安ですが、よりご自身の状況に合わせて精度を高めたい場合は、以下の3つの要素を使って自分で計算することができます。
年間発電量(kWh) = システムの容量(kW) × 年間日照時間(h) × 損失係数
この計算式に出てくる3つの要素について、それぞれ詳しく見ていきましょう。
まず最初の要素は、ご自宅の屋根に設置する(または設置した)ソーラーパネルの「システムの容量(kW)」です。これは、設置するソーラーパネル全体の公称最大出力の合計値で、太陽光発電システムのパワーを表します。
これから導入を検討される方は、業者から提案された見積書に記載されている数値を使いましょう。一般的な戸建て住宅では、屋根の大きさにもよりますが、4kWから6kW程度のシステムを設置するケースが多くなっています。ご自宅の屋根にどのくらいの容量が設置可能かは、最終的に専門業者による現地調査で判断されます。
次に重要なのが、お住まいの地域が1年間にどれくらいの日照に恵まれているかを示す「年間日照時間(h)」です。当然ながら、日照時間が長い地域ほど発電量は多くなります。
このデータは、個人の感覚で判断するのではなく、公的なデータベースを参照するのが最も正確です。信頼性の高いデータとして、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が公開している「日射量データベース」があります。このデータベースでは、全国837地点の過去の気象データから、設置する面の角度に応じた詳細な日射量を確認できます。
ここでは、計算を簡単にするために、NEDOのデータなどを基にした一般的な年間日照時間の目安値を用います。
例えば、東京における南向き・傾斜角30度の屋根の年間日照時間は、およそ1,200時間前後とされています。お住まいの地域の日照時間を正確に知りたい場合は、見積もりを依頼する業者に確認するのが最も手軽で確実です。
最後の要素が「損失係数(ロス)」です。ソーラーパネルが受けた太陽光エネルギーが、すべて家庭で使える電気になるわけではありません。
発電から利用までの過程で、様々な要因によって一定のエネルギーが失われてしまいます。
主な損失の要因としては、以下のようなものが挙げられます。
これらの様々な損失を総合的に考慮したものが「損失係数」です。
一般的に、システムの設計や機器の性能にもよりますが、損失係数は0.7〜0.85程度で計算されることが多く、多くのシミュレーションでは約80%(0.8)前後が用いられます。
これは、発電した電力のうち、約20%はロスとして失われるということを意味します。
それでは、実際にこれまでの要素を使って、一般的な家庭で多く採用される「4.5kW」のソーラーパネルを、日照条件が良いとされる「東京の南向きの屋根」に設置した場合の発電量をシミュレーションしてみましょう。
上記の計算式に当てはめてみましょう。
4.5kW × 1,200h × 0.8 = 4,320kWh
この計算により、年間でおよそ4,320kWhの電力を発電できると予測できます。
これは、冒頭で紹介した「1kWあたり約1,000kWh」の目安(4.5kW × 1,000kWh = 4,500kWh)に近い、より現実的な数値と言えます。
この発電量を電気料金に換算すると、4,320kWh × 31円/kWh = 133,920円となり、年間に約13万円以上の経済効果が期待できる計算になります。
年間の発電量が分かると、次に気になるのが季節ごとの変動です。当然ながら、太陽の高さや日照時間は季節によって大きく異なるため、発電量も毎月同じではありません。
一般的に、ソーラーパネルの発電量が最も多くなるのは、日照時間が長く、かつ気温が上がりすぎてパネルの効率が低下しにくい5月頃と言われています。
逆に、最も少なくなるのは、日照時間が短く、太陽の角度も低い12月や1月頃です。
意外に思われるかもしれませんが、真夏の8月は、日照時間は長いものの、パネルが高温になりすぎることで発電効率が若干低下するため、5月ほどの発電量にはならないケースが多く見られます。
このように、年間の発電量だけでなく、月ごとの変動があることを理解しておくことが重要です。
年間の予測発電量を365日で割ることで、1日あたりの平均発電量を算出できます。
4,320kWh ÷ 365日 ≒ 11.8kWh / 日
1日あたり約11.8kWhの電気が作れる計算になります。これは、消費電力が1.5kWのエアコンを約8時間連続で運転できる電力量に相当します。
もちろん、これもあくまで年間の平均値であり、晴れの日もあれば雨の日もあるため、日々の発電量は大きく変動します。
ここまでは計算上の発電量を見てきましたが、実際の発電量は、計算式だけでは測れない様々な現場の要因に影響を受けます。
ここでは、発電量を左右する代表的な5つの要素について解説します。
前述の通り、季節による日照時間の変化は発電量に直結します。それに加えて、「気温」も重要な要素です。ソーラーパネルの主原料であるシリコンは、温度が高くなると電気抵抗が増す性質があり、高温下では発電効率が低下してしまいます。
一般的に、パネルの表面温度が25℃を超えると、1℃上昇するごとに約0.4%~0.5%ずつ効率が下がると言われています。
このため、猛暑日の続く真夏よりも、過ごしやすい春や秋の方が効率良く発電できるのです。
日々の天候が発電量に最も大きな影響を与えることは、言うまでもありません。快晴の日を100%とすると、曇りの日の発電量はその10%~30%程度に、
雨の日の発電量は5%~20%程度にまで落ち込むと言われています。
業者から提示されるシミュレーションは、過去の気象データに基づき、こうした晴れや曇り、雨の日を平均して算出されています。
ソーラーパネルを設置する屋根の「方角」と「傾斜角度」も、発電量を大きく左右する重要な要素です。
日本(北半球)において、最も効率良く太陽光を受けられるのは、パネルを真南に向けて設置した場合です。
また、傾斜角度については、地域によって最適な角度は異なりますが、一般的には30度前後が最も効率が良いとされています。
もし屋根が真南を向いていなくても、南東や南西向きであれば、南向きの約96%程度の発電量が、真東や真西向きであっても、南向きの約85%程度の発電量が期待できます。北向きの屋根は、日照がほとんど得られないため、設置には適していません。
ソーラーパネルの表面に、鳥のフンや落ち葉、黄砂、火山灰などが付着すると、太陽光が遮られて発電量が低下します。通常、軽い汚れは雨によって自然に洗い流されますが、こびりついた汚れは効率低下の原因となるため、定期的な確認が必要です。
また、それ以上に注意したいのが「影」の影響です。電柱やアンテナ、近隣の建物や樹木などによって、パネルの一部に影がかかると、その部分だけでなく、回路で繋がっている他のパネルの発電量まで大きく低下させてしまうことがあります。設置前には、時間帯による影の動きを専門業者にしっかりと調査してもらうことが不可欠です。
ソーラーパネルも工業製品であるため、長年の使用によって少しずつ劣化し、発電性能は徐々に低下していきます。一般的に、ソーラーパネルの出力は1年間で約0.5%程度低下すると言われています。
このため、多くのメーカーでは、「25年後でも定格出力の80%~85%以上を維持する」という長期の「出力保証」を付けています。この経年劣化も、長期的な発電シミュレーションを立てる際には考慮すべき要素の一つです。
せっかくソーラーパネルを設置するなら、その性能を最大限に引き出し、長く効率的に使いたいものです。ここでは、発電量を最大化し、太陽光発電のメリットを余すことなく享受するための3つの秘訣をご紹介します。
前述の通り、パネル表面の汚れは発電量低下の直接的な原因となります。特に、交通量の多い道路沿いや、樹木が多い場所では汚れが付着しやすくなります。年に1回程度は、専門業者に依頼して点検や清掃を行うことで、初期の発電性能を維持し、設備の異常を早期に発見することにも繋がります。
注意点として、自分で屋根に登って清掃するのは、転落の危険性が非常に高いため絶対に避けるべきです。また、誤った方法で洗浄するとパネルを傷つけてしまう可能性もあります。メンテナンスは必ず専門知識を持った業者に依頼しましょう。
パワーコンディショナ(パワコン)は、ソーラーパネルで発電した直流電力を、家庭で使える交流電力に変換する、太陽光発電システムの「心臓部」です。このパワコンの「変換効率」が高ければ高いほど、発電した電気を無駄なく家庭で使える電力に変換できます。
近年のパワコンの変換効率は非常に高く、95%以上の製品が主流となっています。わずか数パーセントの違いでも、20年、30年という長期間で考えれば、総発電量には大きな差となって現れます。業者から提案を受ける際には、パワコンの変換効率にも注目してみましょう。
発電量を物理的に増やすこととは少し視点が異なりますが、発電した電気の「価値」を最大化するという意味で、家庭用蓄電池の併用は極めて有効な手段です。
太陽光発電が最も多く発電するのは、家庭での電力消費が少ない平日の日中です。そのため、発電した電力の多くは「余剰電力」として余ってしまいます。蓄電池がない場合、この余剰電力は電力会社に売電することになりますが、現在の売電価格は年々下落しています。
一方で、電力会社から電気を買う価格は高騰しています。そこで、日中に余った電気を安い価格で売るのではなく、家庭用蓄電池に貯めておき、電力購入単価が高い夜間や朝夕の時間帯に使うことで、高い電気を買う量を大幅に減らすことができます。これにより、太陽光発電で創った電気の価値を最大限に高め、家計への貢献度を飛躍的に向上させることが可能になるのです。
今回は、ソーラーパネルの発電量について、ご自身で計算するための方法から、発電量を左右する様々な要因、そしてその価値を最大化する秘訣まで、詳しく解説してきました。
ご自身で発電量を計算してみることは、太陽光発電への理解を深め、導入計画を具体化するための非常に重要な第一歩です。しかし、最終的に正確な発電量を予測するためには、専門の業者による詳細な現地調査と、専用ソフトを用いたプロフェッショナルなシミュレーションが不可欠です。
まずは本記事で得た知識を基に、複数の信頼できる業者から無料で見積もりと発電シミュレーションを取り寄せ、その内容を比較検討することから始めてみてはいかがでしょうか。あなたの家庭に最適な太陽光発電システムが、クリーンで経済的な未来をもたらしてくれることを願っています。